UsrUnikasUejUt

更新頻度は気分

3.11

 女がひとり、新宿の混沌に塗れてしまっていたという。ぎらぎらな夜の喧騒。女は信じる。果てしない、あの空の向こう側には、きっと、大きな舟が浮かんでいるのだ、と。

 女は疲れた。それで、巨大な鯰に乗った。そして、暫し目を瞑ったままでいた。

 世界がゆらりとした感触に、少女は視界を取り戻す。水晶の煌めきを帯びた水中いっぱいに広がる無口な魚たちが、横目で少女を見つけては鯰の周囲を囲み、ぐるぐる回っている。鯰が急にスピードを落としたので、彼らは一瞬彼の頭を飛び越してしまって、少女の視線の先に円形の虹ができた。それがなんだか可笑しくなって、少女は笑った。そういう想像だけがぐちゃぐちゃな心を穏やかにした。暗くもの静かな川を昇り、温もりを感じながら進む風景に、どきどきして、ほっとして、このままフタバに向かえたら。と心の底から思ったのだ。少女の願いは破片となり、声をあげて散っていく。冷たく誘う深海を、月のように照らしながら。

 がたがたと心地よく揺れる車内には、「少女」のひらひらした舞のほか、何も無かった。真暗な田園をただひたすら通過するだけの、精密機器にぽっかり空いた空白に、躍動的な生命の炎が儚く萌えていた。彼女の視界にはいつも、ひどく震える風景が、もうひとつある。真っ黒なクレヨンで塗りつぶした、幼い少女の風景が。